
僕たちの住むこの町は、東京都とほぼ同じ面積に87000人が住んでいて、1年間に訪れる観光客は人口の52倍にもなる451万人。とても小さくとても大きな町だ。

町の周りには標高3000mを越す山々が連なっている。都会とは違って、遊びの中心は常に自然界にあるんだ。山、川、湖、季節に沿って遊びは進んでいって、休みになれば朝早くから川へ出かけたり山へ出かけたり、日が落ちれば行きつけの飲み屋に集まって今日あった面白いこと怖かったことなんかとこれからの計画を肴に酒を飲んでる。そんな話の中でここはこうしたほうが使いやすいよとか、今の季節には暑いからもう少し軽い素材の方がフィットするねとか、そんな話になる。もちろん僕たちの仲間は全国にもいるから、1年中いろんなフィールドで使っていて同じように声が届いてくる。東北の山ではこの方がいいとか、山陰の山ではこの方がいいとか、西と東で求めるものは違ってくるんだ。僕たちの住むここ飛騨高山は日本のほぼ真ん中。さっきも言ったけど、この町で遊ぶってなると結構ハードなものが必要なんだ。険しい山もある、渓谷もある、バイクで山を走り回る仲間もいるし雪の中で寝泊まりしたりね。
この町のアクティビティで使えるものっていうのが最低限必要なんだ。


できる限りこの町で全ての作業を行えるように進めているんだ。今の時点で工程の8割はこの町で行っている。作ってテストして変更してっていうサイクルに各役割の距離ってとても大切で、あと一緒に話したり飲んだりも頻繁にできるしね。関わる全ての人に僕たちの想いを伝えなきゃ必要なものは作れない。だからこだわらなければいけない部分だ。
冬になれば観光客は減って、雪山で遊ぶ人達が増えるんだ。スキー場だって楽しいし、内陸で標高も高いから日本有数の軽い新雪が降るんだ。みんなあまり知らないからいつも独り占めだよ。スノーボードやアクティビティを生業にしている人は多くないけど、みんな大好きな遊びには真剣だから、仕事の前に2時間だけ滑ってからとか、仕事早く切り上げて1時間だけとか、それぞれの楽しみ方で遊んでる。ウェアの下は仕事着なんて人もいるよ。

1990年から物作りを始めて、これまで多くの製品を送り出してきた。それらは全て自分の経験から必要と思える要素を取り入れて、現場で使用するに値する製品でなければいけなかった。そしてこれからもこの考えは変わらない。過酷な環境では使う道具ひとつ、着用するギアひとつで命を落としかねないからだ。命をかけて自ら課した厳しい目的や表現に突き進むプロスタッフ達がいる。僕たちのフィールドから得ることのできる要素と、彼らの言葉に詰まっている要素を吟味しテストを繰り返し間違いのないものを作り上げてゆく。